「ITプロジェクトを失敗させる方法」

「ソフトウエア開発自体だけでなく、プロジェクトをマネージメントする上でも、現実に即した解決方法を探すとアジャイルになる」、と私には読めた。以前読んだPM関連の本には、プロジェクト計画時に先が見えないことに関して、先をきちんと見通すことを目標とする記述があり、私はプロジェクト開始時になるべく詳細な計画を作ることに注力していたことがあった。しかし数ヵ月後、どうしても実績がずれていってしまった。よくあることではあるが、それが当然と思っていたときもあった。しかしこの本では、「曖昧さを受容しマネジメントする」とあり、「変化に対して柔軟に対応すべき」とある。また変化に対応するには「目的の明確化とステークホルダー併せて共有すること」が必要ともある。こういう一見単純だが心に響く事柄がきちんと書かれていることがとても嬉しい。

他にもいくつかの嬉しいキーワードがこの本には書かれている。「やらされ感の排除」、「振り返り」だ。それと「感謝」と「思いやり」が取り上げられているのは重要だ。「思いやり」は五十嵐さんの思いやり駆動開発でも言及されているが、私は人間系をスムースに扱うためのマインドに強く働きかける言葉と考えており、プロジェクトマネージメントはじめ様々なシチュエーションに使うことが可能な言葉だろう。また「感謝」は、これは私の個人的な話になってしまうが、KPTによるチーム振り返りがうまくできていない時に、「感謝をKeepに入れては」とのアドバイスを著者の中村さんから直接いただいて改善できたことがあった。そのころからふりかえりでチームがコントロール外な事への注文ではなく、自分達の行動に対してふりかえるようになってきたと記憶している。どちらの言葉もそれが直接、プロジェクトを成功に結びつけるわけではないが、マインドからじわじわと変化させる力を持っている良い言葉だと思う。

本書ではセクションごとに小さなマインドマップで項目が整理されていて、セクション冒頭で内容が俯瞰でき理解しやすくなっている。また事例が多く載っているが、同じ事例で成功例と失敗例の2つがペアで書かれていて、登場人物のやり取りを1つ1つ見ていくと、わずかな会話の違いから成功と失敗に分かれていることに気付く。別々のページに書かれているので、比較するにはページを送ったり戻したりしなければならないが、それでも比較する価値はある。それほど時間をかけずに読むことができたが、これはわかりやすい言葉でわかりやすく書かれているからだろう。この1冊ですべてをまかなうという教科書的な使い方をするよりも、ちょっと行き詰った時や悩んだ時にさっと読み通すのがいい。きっと、こんな気持ちを忘れていたな、といったような気付きをもらえると思う。

ITプロジェクトを失敗させる方法―失敗要因分析と成功への鍵

ITプロジェクトを失敗させる方法―失敗要因分析と成功への鍵